プリンタや複合機をはじめとしたオフィス機器や光学機器、産業機器などを手掛けるリコーは、早くから3Dプリンタの持つ力に注目し迅速な試作開発 (ラピッドプロトタイピング) に活用してきた企業です。最近では試作だけにとどまらず、ものづくりの生産プロセスそのものにおいても3D プリンタを活用しようと、積極的に取り組んでいます。
「いままでの“なにかの置き換え”ではなく、“3Dプリンタでないとできない姿”、それがなんなのかを追究していきたい。3D プリンタであれば、バイオミメティクスやトポロジー最適化などで得られた最適解でものを作ることができる、それが最大の強みです。3Dプリンタには弱点もあるが、長所を生かし弱点は何かでカバーするうまい使い方で、3Dプリンタが使える世界を広げ、
ものづくりに大きく貢献したい。それがリコーの目指す次の姿です」 (坂木氏)
リコーインダストリー東北事業所では、特に付加価値の高い大型のプロダクションプリンタと呼ばれる製品を製造しています。プロダクションプリンタは、生産台数は少ないが部品点数が非常に多くなっています。「このため生産現場では、作業者一人当たりの部品持ち点数が200点前後もあり、生産ラインの構築では組み付けの間違いが起きないような作業環境を作ることが課題となっていました」 (リコーインダストリー株式会社 生産革新センター 課長 平間勝美氏)。従来の生産ラインでは、切削加工で作られた金属製の組み付け治具が作業台に固定されていた。
この治具は単純な形のため、作業者が組み立て手順を学習したうえで、部品をどの向きや角度で置くかを都度判断する必要がありました。そこで平間氏は、この金属製治具を3Dプリンタで作ったプラスチック製治具に置き換えました。自由度の高い造形が簡単に作れる特長を生かして、治具の形をそこに置く部品の形状に合わせたものにしたのです。これによって作業者は治具を見るだけで、どの部品をどう置くのか直感的に理解することができるようになりました。平間氏はさらに改良を加えて、組み付け作業を補助する矢印や記号なども治具に付加し、治具が載った作業台そのものが、作業手順を示すマニュアルの役目を果たすようにしました。これは、組み付け間違いの低減効果だけでなく、新しい作業者が組み付け作業に習熟するまでの期間が、約1週間から2日に大きく短縮される、ということにもつながりました。
これらの治具を製作する3Dプリンタとして力を発揮したのがFortusでした。リコーが評価したのはまずFortusが持つ造形精度と安定性、そしてさまざまな機能を持った造形材料が使えることでした。プロダクションプリンタの製造には電子部品が多く、静電気の起こらない帯電防止効果を持つ造形材料や、高い強度を持つもの、耐熱性を持つものなど、用途に合わせた機能性材料をそろえているFotus が最適と判断しました。
「リコーは、研究開発に始まり最終的に生産へとつながるものづくりのプロセスにおいて、3Dプリンタの活用には3種類あると考えています」と、リコーグループ内での3Dプリンタ活用を推進する、株式会社リコーの部長、坂木泰三氏は話します。「まずは開発工程で活用する“ラピッドプロトタイピング”で、これは1990年代に始まり既に一般的になりました。リコーはさらに3Dプリンタを活用したいと考え、生産現場で必要な道具を作る“ラピッドツーリング”、そして最終製品を作る“ラピッドマニュファクチャリング”までを目指しています。社内で培われたノウハウはお客様にサービスとして提供していきます」 (坂木氏)
リコーインダストリー東北事業所での取り組みは、2 番目のラピッドツーリング実践へのチャレンジということになります。